Romantic Old Dream
(古い夢、記憶は、まるでロマンティックで。)
夢を見ているみたいだね、ともういない貴方に囁いた。
1ページ、また1ページと、絵本のようにページをめくる。
貴方が遺した手記を、日記を。
*
もう大分と、時が経っていた。どのくらい経ったかなんて覚えていないほどの、時の流れ。
その中で貴方は消え、私はひとりのこされる。
仕方がない。だって仕方がない。
貴方と私の違いだもの、これが。だから今はもう、悲しくなんてないのよ?
時々思い出に浸るけど、その思い出も、もう色あせてざらつきはじめていた。
貴方と過ごした日々の細やかな記憶はもうなくなりかけている。
でも私はきっと忘れない。
貴方の笑顔も貴方と過ごした夢みたいな日々も。きっと忘れないの。忘れることなんてできないの。
だってあなたが大切だったもの。
ふと脳裏で懐かしい歌が響く。
これは、確か貴方が好きだった歌ね。
瞳を閉じて歌を頭の中に響かせる。そうすると、思い出が鮮やかな色彩を伴って流れ始めた。
まるでこの歌は付箋みたいね。
貴方と過ごした時間を思い出させる、素敵な付箋。
色々と、思いだした。例えば貴方の口癖とか。
男勝りな性格で、少しだけ粗野で、口癖も、男の子みたいだった。
貴方の残した日記をまためくる。
紙の端をなぞって出来た傷を指でなぞりながら、呟いた。
「――会いたい」
だけどもう、不可能で。
*
巡りあってからたくさんの年月を経て、たくさんの出来事が重なって。
お互いを分かりあっているようで分かりあえていない、そんな関係になっていた。
今更素直になることなんて、互いにちょっとした照れと恥ずかしさがあってできなくなっていた。
だから私はずっと、言えなかった。
ある日突然訪れた幸運にも素直になれなくて、“平常”という名の仮面をかぶってごまかした。
いつもみたいに。
いつもそうだから、いつまでも素直な気持ちなんて言えなくて。
失ってから初めて気づいた、なんてわけではないけれど、失ってその気持ちを、存在の大切さを改めて実感した。
でもね、
それでも素直になろうとはしたの。
貴方が困っている時、言葉や態度とは裏腹に、素直に手を差し伸べた。
貴方は笑って私と同じように言葉や態度と裏腹に素直に手を取って。
互いに同じような気持ちだったから。
だから、それでも幸せだった。
*
いつか言える。好きなのよ、なんて。
もう言えないから。もう言えないから。
夢でもいいの。
それが夢でも、
*
夢を見ているみたいだね、ともういない貴方に囁いた。
1ページ、また1ページと、絵本のようにページをめくる。
貴方が遺した手記を、日記を。
*
(○○へ
お前に言いたいことがある。
愛しても、大好きでもなかったけど、
今まで出会った奴の中で、一番、好きだった。)