二人してだんまりになって、もうどれくらい経つだろう。
時計の針が、重い一秒を刻む。頼んだラテは冷めて、牛乳の膜が張っている。
俺もあいつも、口を開こうとしない。
耐えきれなくなって、机に頬杖をついてなんとなく窓の外に視線をやる。
疑いを知らない、やけに澄んだ青空だった。今の自分たちとは、あまりにも正反対で、思わず泣きそうになった。
今日ここで終わるんだってことは、嫌でも分かった。
「ねぇ。もう、終わりにしましょう?」
ほらね。
二人の時間は、歪んでいくだけだ。
ぐにゃぐにゃ歪んで、やがて、交わらなくなる。
それでも好きだった。それでも、好きなんだ。
だから俺は、最後のわがままを言いかけた。
まだ一緒にいてくれ。
言いかけて、口を開きかけて、それで、やめた。
もう俺なんて映してない瞳に、他の誰かの姿を見たから。
こうなることを、気付いてないわけじゃなかった。
あの瞳に次第に俺が映らなくなってたことにも、気付いてないわけじゃなかった。
別の誰かを映していることだって、気付いてないわけじゃなかった。
いつか終わることにも、気付いてた。
だからいつだって探していたんだ。うまい終わり方を。自分が傷つかない終わり方を。そうしていたら、タイミングを失った。その結果がこれだ。こんな、いちばん恐れていた終わり方になった。
ああ、もう、泣いてもわめいてもカウントダウンだ。さよならへの、カウントダウンだ。
さよならはもうすぐそこで待ちくたびれている。
あの瞳は、もう別のぬくもりの中にいる。
耐えかねたように、彼女が席を立った。そしてそのまま、動かない影を見上げた。
俺たちは、どんなふうに笑ってたんだろう。
俺たちは、どこですれ違ったんだろう。
思い出せない。俺は、俺は、こんなにも好きだったのに。
それさえわからないのなら、もう仕方ないのかもしれない。
「そうだな」
俺は、最後のわがままをかき消した。
その瞳が求めてる自由は、この手にあるんだろう?
それなら、
「さよなら」
「さよなら」
もう離してあげる。
背中を向けて歩きだしたまま、振り返らないその背中が望むなら。
さよなら。さよなら。
「さよなら」
もう一度呟いて、それから泣いた。