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 彼は、気がつくと私の首に手をかけていた。
 何も言わない。私も彼も。ただ見つめあって、このおかしな状況の中にいた。
 「殺すの?」
 尋ねてみた。彼が首を縦に振った。
 私は笑ってみた。
 「そう」
 「殺されても、いいの?」
 彼が不思議そうな顔をした。
 「殺したいなら、殺せばいい。別に私は何も言わない」
 私が言うと、彼は黙った。
 そして、彼は手に力を入れた。
 息苦しさと、真っ白になった頭の中で、彼の言葉を聞いた。
 バカみたい。最期の言葉が、愛してた、ですって。

みたいなシチュエーションが好きな私はただの変態。
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GO!GO!の「ララバイカウントダウン」を聴き続けた結果がこれだよ。

「ちょっと待てよ! 何でオレが死ななきゃなんねぇんだ!」
「しょうがないよ。君は、殺されてしかるべき事をしてしまったんだ」
「でもオレが生きるためには仕方なかったんだよ!
 アイツを殺さなきゃ、オレは殺されてたんだ!
 アイツはオレを、とんでもなく残酷なやり方で殺そうとしてたんだ!」
「・・・・・・でも、君は人を殺してしまったんだ。
 この世界の理なんだよ。人を殺したら、殺されることは。わかってくれ」
「くそ・・・・・・・・・・・・、理不尽だ!」
「すまない・・・・・・、本当に、申し訳ない」
「オレは悪くない! オレは、悪くないのに!」




「あの犬、かわいそうだな。殺されかけたから反撃したら、飼い主死んじまってな」
「アイツは何にも悪くねぇのになぁ」
「人間様殺しちまったもんだから処分、だもんなぁ」
「まったく勝手だよなぁ。人間てぇのは」
「そういう俺らも人間なんだもんなあ」

『私の名前をお知りになりたいのでしょう?』

そう言って、少女は笑った。
林檎のような少女だと、私は思った。
白く美しい肌に、少しだけ赤い頬。
切れ長の涼しい瞳。
林檎のように美しい少女だった。

『でも、今思い出せなくて悲しいのです』

少女はそう、本当に悲しげに笑った。

「自分の名前なのに、思い出せないのかい?」

私が問いかけると、少女はこう答えた。

『しばらく使っていないもので。というより、私に名前などあったかどうすらわからないのです』

それから少女は、私にこんなお願いをした。

『どうぞ、お好きにお呼びになってください』
「そう言われても、ね」
『ああ、そういえば、少しだけ思い出しました。私の名は、五月に花を咲かす植物だと母が仰っておりました』
「五月か」
『ええ、五月です』

林檎も五月に花を咲かせたな、なんて頭の片隅で呟く。

窓を風が叩く。
それにつられて外を見ると、木通が開いていた。

『秋色の合図でしょうか』
「え?」
『木通』
「ああ」

それから私と少女は、黙って窓の外を見ていた。

ポツリと、少女が呟いた。

『季節が、黙って去るのは、寂しいですか?』
「どういうことだい?」
『季節というのは、ひたすらに寡黙です。訪れる時も去る時も、何も言わない。それは、寂しいですか?』
「さあ、どうだろうね。少なくとも私は、それが当たり前だと感じている」
『そうですか』

少女の言葉で、私はふと過去の事を思い出していた。
自分がここに来た経緯。
少女と出会うずっとずっとずっと前の話。
辛苦の果てにたどりついたのは、絶望の淵。

『泪を拭いてください』
「え?」
『顔も、あげてください』
「・・・・・・あぁ」

知らぬ間に私は泣いていたようだ。
らしくないと自覚しながら、涙を拭い顔を上げた。

『あなたも、人間ですね』
「君もだろう?」

唐突な言葉に、思わず言う。
少女はその言葉に、悲しげに首を振った。

『私が憧れてるのは、人間なのです』
「え?」
『啼いたり、嗤ったりできる、そのことが素敵』
「君もしてるじゃないか」
『いいえ、私のはハリボテです。私は人間ではない』

その言葉を聞いて、私はどこかピンとくるものがあった。

『でも、今思い出せなくて悲しいのです』

少女は、自らの名についてそう語った。
ならば私が。私が思い出させてあげよう。

「君の名前は、」
『え?』
「君は、『林檎』ではないかな?」

私がそう言うと、少女の顔がぱぁっと明るくなった。

『たった今、私の名がわかりました』

少女の姿が、薄く透明になる。

『あなたがおっしゃる通りの林檎です』

少女が消えた。
少女の居た場所には、ひとつの大きな、真っ赤な林檎。

『召しませ、罪の果実!』

私はその林檎を拾い上げた。
口に運んで齧ると、甘かった。


奇子 ~クラヤミショウジョ

 それは当然だった。
 あたしにとってごく当り前で、ごく普通だった。

 異常だけど。

 人の異常はあたしの普通。あたしの普通は人の異常。
 だって、ねぇ?

 冷たい地下、暗闇の中で生きるのは、あたしくらいでしょう?

 


 もう何年も、私は光を見ていない。
 世間は私の存在すら知らず、生まれたことさえも、この冷たい地下にあった。
 大人の汚れた手のひらは私と包み、包まれた中にある消えない罪の正体を知る。
 あたしは罪だ。
 
 罪だから、もっと壊れて狂っておかしくなってもいいと、ある時悟った。

 咲いた花はいずれ朽ち、羽ばたいた鳥はきっと堕ちる。
 それらはみーんな人々の記憶からなんて消えていくのだ。
 ならそうなればいい。
 ならそうなればいい。
 朽ち、堕ちて、消えてしまえばいい。

 ねぇ? そうでしょ?



 最初はお姉様だった。
 お姉様はいつもあたしと接しているよりも遥に幼く、そしてみじめな有様になっていた。
 
 「ねぇ、お姉様?」

 聞かせて?
 奪った光、冷たい土の下、塞いだ穴の中、知られない事実。
 ねぇ、お姉様?

 「聞かせて?」

 真っ赤なその頭顔口で、ね?



 次はお母様だった。

 「ねぇ、お母様?」

 あたしきっと、ずっと待ってたの。
 いつかこんな日が来るのを、ずっとずっとずっと待ってた。
 だってここは、闇は、あたしの世界だもの。
 人は闇に屈し、その中で私は生きて、闇はあたしだけの世界で、だからここではあたしがすべてで。

 「聞かせて?」

 積もった恨みの晴らし方。
 ああ、やっぱりいいかも。

 もう結構、晴らしてるし。

 「さぁ、お母様」

 素敵な棺桶は、冷たい土の中ですよ、お母様。



 あたしはずっと、ここで生きていく。
 暗闇というあたしの世界で、あたしと、二つの棺桶とで生きていくの。

 
 だってあたしは奇子だもの。
 奇子、罪の子だもの。




 (狂った秩序と不快な連鎖、彼女らがたどったのは、愚かな末路――)



あんきもの「奇子」がもとです
なんか書いてて楽しかった。
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BrownBetty 
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