奇子 ~クラヤミショウジョ
それは当然だった。
あたしにとってごく当り前で、ごく普通だった。
異常だけど。
人の異常はあたしの普通。あたしの普通は人の異常。
だって、ねぇ?
冷たい地下、暗闇の中で生きるのは、あたしくらいでしょう?
*
もう何年も、私は光を見ていない。
世間は私の存在すら知らず、生まれたことさえも、この冷たい地下にあった。
大人の汚れた手のひらは私と包み、包まれた中にある消えない罪の正体を知る。
あたしは罪だ。
罪だから、もっと壊れて狂っておかしくなってもいいと、ある時悟った。
咲いた花はいずれ朽ち、羽ばたいた鳥はきっと堕ちる。
それらはみーんな人々の記憶からなんて消えていくのだ。
ならそうなればいい。
ならそうなればいい。
朽ち、堕ちて、消えてしまえばいい。
ねぇ? そうでしょ?
*
最初はお姉様だった。
お姉様はいつもあたしと接しているよりも遥に幼く、そしてみじめな有様になっていた。
「ねぇ、お姉様?」
聞かせて?
奪った光、冷たい土の下、塞いだ穴の中、知られない事実。
ねぇ、お姉様?
「聞かせて?」
真っ赤なその頭顔口で、ね?
*
次はお母様だった。
「ねぇ、お母様?」
あたしきっと、ずっと待ってたの。
いつかこんな日が来るのを、ずっとずっとずっと待ってた。
だってここは、闇は、あたしの世界だもの。
人は闇に屈し、その中で私は生きて、闇はあたしだけの世界で、だからここではあたしがすべてで。
「聞かせて?」
積もった恨みの晴らし方。
ああ、やっぱりいいかも。
もう結構、晴らしてるし。
「さぁ、お母様」
素敵な棺桶は、冷たい土の中ですよ、お母様。
*
あたしはずっと、ここで生きていく。
暗闇というあたしの世界で、あたしと、二つの棺桶とで生きていくの。
だってあたしは奇子だもの。
奇子、罪の子だもの。
*
(狂った秩序と不快な連鎖、彼女らがたどったのは、愚かな末路――)
あんきもの「奇子」がもとです
なんか書いてて楽しかった。
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